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リーダーに求められるコミュニケーションは ジャッジをせず、事実を伝える声かけから

Vol.3 2015年2月7日
平 美和(たいら みわ)さん PHP研究所認定 上級ビジネスコーチ、PHP研究所認定 チームコーチ
全米NLP協会(ABNLP)認定 NLPトレーナー 
親学推進協会公認講師、日本コミュニケーション能力認定協会特別講師

旧郵政省で人材開発、職員の潜在能力開発に携わる。2002年には公社化に向け、人事制度改革プロジェクトに唯一の女性メンバーとして抜擢される。人材開発へのコーチング導入に成功し、その後もメンバーの育成、キャリア開発支援のリーダーとして活躍。
2003年からはコーチング、心理学を本格的に学びはじめる。研修を受けている参加者が自らの可能性に気づく姿を見て、気づきの「きっかけ」になることがミッションと考えるようになる。2005年に独立し、現在は年間180回を超える研修を実施している。

コミュニケーションは難しくない
事実を「見て」「留めて」、ジャッジせず「伝える」だけ

対談の様子和泉 日本でも女性にリーダーとして活躍することが求められるようになりました。その一方で、部下や同僚とのコミュニケーションで悩んでいる女性も多いと聞きます。平講師自身も旧郵政省、郵政公社でリーダーとして活躍され、いまは研修講師としての立場で女性リーダーと関わることも多いと思いますが、リーダーに求められるコミュニケーションとはどのようなものでしょうか。

 「リーダーに求められるコミュニケーション」というと、どうしたらいいのだろうと身構えがちですが、実はとてもシンプルなことなんです。まず大切なことは日頃からの声かけと、仕事の内容や意義をきちんと伝えることです。
そもそも、企業という組織では、企業理念や企業ビジョンと自分のやっている仕事がしっかりリンクしてこそ、自分自身はもちろんメンバーもモチベーションを高めることができます。言い換えると、「その仕事が組織内でどう役立つのか」「何のためにやっているのか」が理解できていないと、ただ「こなす」だけになってしまいます。

和泉 リーダーには、「その仕事が組織内でどう役立つのか」「何のためにやっているのか」をきちんと理解し、伝えることが求められるのですね。

 はい。その一方で、部下の側も自分で考えたり、上司に質問したりすることをせず、「上司が何も教えてくれない」と不平不満ばかりを言い、自らやる気を低下させてしまうこともよくある話です。また、上司に質問をすること自体が「出すぎたこと」と考え、敬遠する傾向があるからです。そうなるのは、やはり日頃からの職場のコミュニケーションに問題があるのでしょう。「言えない」「聴けない」という雰囲気になっているのでしょうね。

和泉 そうならないためにも、日頃からのコミュニケーションが大切なのですね。

 そうです。日頃からのちょっとした「声かけ」が大切です。新任マネージャー研修などで「女性の部下にどう接すればいいか」と質問されることも多いのですが、部下、なかでも女性の部下は、「気にして欲しい」と考えています。「気にする」こととは「認める」こと、つまり「見て」「(気に)留めて」欲しいのです。その際、ただ「見て」「止める」だけでなく、それを伝えることが大切になります。

和泉 「見て」「留めて」「伝える」って、コミュニケーションそのものじゃないですか!

 そのときにジャッジをしないことがポイントです。たとえば、部下がお客様ロビーにさりげなくリーフレットを補充してくれたとしましょう。その際に、「補充してくれたんだね。ありがとう。」と伝えるということです。それだけで嬉しいと思うでしょう。「気にかけてくれている」「観てくれている」と感じるからです。ジャッジしないということは、評価しない、またここでは、褒めたたえるということではないということです。見た事実を伝える。ですから非常にシンプルなことなのです。

和泉 ジャッジをせず、事実だけを伝えればいいのですね! とっても新鮮な感じがします。それでいて、誰でもできそう!

 この声かけは、さまざまな場面で応用できます。自分が指示を出す前にコピーを取ってくれていたら、「コピーを取ってくれたんだね」と事実を伝える。データをまとめて置いてくれたら「データをまとめてくれたんだね」と伝える。リーダーに限らず誰にでもでき、誰にでもやって欲しいことです。私自身、組織にいた頃、幹部会議が終わり、会議室を片付けていた時に、「あー片付けてくれたんだね。ありがとう。」と言っていただいて、やはりうれしかったことを記憶しています。

 

和泉 日頃から声を掛け合うことで人間関係のベースが築けていれば、部下が「質問しにくい」などと考えなくなりそうですね。

 関係性が築けていれば、「なんとかしてリーダーシップを発揮しなくちゃ」と意気込まなくても、メンバーのほうから「協力しよう」「リーダーを助けて一緒に頑張ろう」と思うようにもなってくれますよ。

和泉 それ、とてもわかる気がします。

女性にはリーダーとしての素養がある

 それと、やはり私たちは「役割がないとモチベーションが低下する」傾向があります。だから、組織では役割分担と適材適所という考え方も重要です。一般的に女性は相手の強みに気づき、その力を活かして役割を任せることが得意です。つまり、リーダーとしての素養がある。ところが日本では、女性はリーダーに向いていない、マネジメントができないという思い込みが、女性自身にも組織にもあるのです。

和泉 家庭という組織では、女性がマネジメントをし、リーダーシップを発揮しているわけですしね。女性自身も組織も意識を変える必要がありそうです。

 加えて、女性の場合、「リーダー」と考えた時に、経験がまだないだけなのですが、「私には、ちょっと、、、」「私にはできない」という思考になることが少なくありません。

和泉 ああ、わかります。「私にはリーダーなんて無理ですよね」とか、「その仕事、難しいんですよね」という感じですね。

 はい。ネガティブな問いかけに対しては「どういうことならできそう?」と、逆に聞いてみる効果的です。「リフレーミング」という考え方なのですが、物事を違う角度、枠組みから見ることによって見方や感じ方が変わり、行動も変わっていきます。その結果、モチベーションにも影響を与えることになります。

和泉 なるほど。おおざっぱな人は、経理部門など細かい作業が必要な部署では「できないヤツ」だったとしても、新たなビジネスを切り開くことが必要な営業部門では「できるヤツ」として活躍するかもしれませんしね。

 そうなのです。私自身、研修でどこまで理解したかを確認する際、「わからないことはどこですか?」と聞かずに、「どこが理解できましたか?」とお願いすることにしています。そうすると理解できたことを説明してくれるので、まだ説明していないことや、わかりにくかったことに私自身も気づくことができます。

和泉 ポジティブな言葉で問いかけをする…。参考になります。

体験(ワーク)を通じて講義内容が理解でき、変化につながる

対談の様子

和泉 そういえば、平講師のセミナーでは、時々さまざまなゲームをやっていらっしゃいますよね。

 はい。私の研修では、講義のあとで内容を理解できたかを確認するゲーム(ワーク)をやることがあります。学んだ事を、情報から知識に変えていくためにも、要するに腑に落としていただくためにも、体験することが大切だと思っています。

和泉 講義ではわかったことを、ワークで補強ということですね。

  ワークは、講義の内容を復習する意味で行う位置づけでもあります。だから「さきほどの講義で…」と説明すると、みんな「ドキっ」とします。

和泉 それは「しまったっ」という感じでしょうね(笑)。講義だけでは理解できないことを、体験(ワーク)を通じて受講者自身が気づき、変化につながる効果があるのですね。他にもワークがあるのですか?

 その講義の内容に即したワークが何種類もあります。

和泉 それぞれ興味深いですね。

小プロジェクトでのリーダー経験が
たくさんの将来の女性リーダー候補を育成する

和泉 話を戻しますが、女性にはリーダーの素養があるということですが、女性のリーダーを増やす、育てるためには何が必要ですか?リーダーになる側も心構えのようなものが必要ですよね。

 リーダーになると、自分より年上の女性が部下になる場合もあります。このシチュエーションを「気まずい」と感じる人も多いようですが、その場合は仕事を任せるといい。これは私自身の経験ですが、あるプロジェクトで私がリーダーになったことがありました。メンバーは、私よりも年上で経験もある人だったので戸惑いましたが、そこで、その方々に見合った役割をお願いしたところ、喜んで活き活きと仕事をしてくれましたし、何より色々な情報を共有してくださるようになりました。人は仕事を任されると前向きになり、喜んで協力してくれるものです。年上の女性を部下に持ったときには、「まだリーダーとしての経験が浅いので、ぜひ力を貸して支えて欲しい」と謙虚に伝えることで、快く協力してくれます。そこで大切なのは、謙虚と遠慮は違うということですね。

和泉 「役割がないとモチベーションが低下する」の逆ですね。

 同僚や年下の部下も同じです。たとえば、社内イベントの責任者、朝礼の司会、職場の環境改善など小さなプロジェクトのリーダーに指名し、その仕事を任せることでモチベーションを高めることができます。リーダーになることで責任感も高まりますし、どのように説明をすれば、相手にきちんと意図が伝わるかを考えて話す意識をするようにもなります。

和泉 大きな責任を伴う業務をいきなり与えるのは、任せる側も任された側も大変だけれど、小さなプロジェクトなら「頑張って」と思えそうですね。それを日々積み重ねていくことで、たくさんの将来の女性リーダー候補が育ちそうです。本日はどうもありがとうございました。

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